貧乏な人ほど感情的になりやすい理由をご紹介します。
金銭的に余裕がないと、なぜイライラしやすくなったり、他者に対して怒りっぽく攻撃的になるのか。
そうなった経験がある人や、実際に周りにそういう人がいる場合は参考にしてみてください。
それは「性格の問題」ではない!経済的困窮が脳に与える科学的影響

お金のことで頭がいっぱいで、ほんの些細なことでカッとなったり、理由もなく涙が出たりする。そして、そんな自分に対して「なぜ、こんなに感情の起伏が激しいのだろう」「自分は心が狭く、ダメな人間なのではないか」と自己嫌悪に陥ってしまう。
ただそれは、決して性格の問題ではありません。近年の心理学や行動経済学の研究によって、経済的な困窮、つまり「お金がない」という状態が続くことは、人間の脳機能に直接的、かつ重大な影響を与えることが科学的に明らかになってきています。
慢性的なストレスが思考力や判断力、そして感情をコントロールする能力そのものを著しく低下させてしまうのです。
この記事では、「貧しいと感情的になりやすい」現象を、個人の資質の問題としてではなく、誰の身にも起こりうる、脳の科学的な反応として捉え直します。
その上で、なぜそのような心理状態に陥るのか、そのメカニズムを深く解き明かし、負のスパイラルから抜け出すための具体的な方法を専門的な知見に基づいて解説していきましょう。
専門家が指摘する「認知資源の枯渇」!貧困が判断力を奪うメカニズム

感情の揺れ動きを理解する上で、まず知っておくべき大前提があります。それは、経済的な困窮状態が、人間の「認知資源(メンタル的な容量)」を著しく消耗させる科学的な事実です。これは、決して精神論ではありません。
常に脳が「お金の悩み」に占有されてほかのことに使うメモリが残っていない
人間の脳の注意力や思考力は、スマートフォンのメモリやバッテリーのように有限です。そして、「お金がない」という悩みは、この脳のメモリを本人が意識している以上に、常に大量に消費し続ける、きわめて負荷の高いプログラムといえます。
「次の支払いはどうしようか」「食費をどう切り詰めるか」といった絶え間ない心配事が、頭の中の大部分を占有してしまいます。
その結果、ほかの大切なこと、例えば長期的な計画を立てたり、新しい情報を学んだり、あるいは、相手の言葉の意図を冷静に汲み取ったりするための、脳のワーキングメモリがほとんど残っていない状態に陥るのです。
脳の「実行機能」が低下して感情のブレーキが効きにくくなる
認知資源が枯渇すると、脳の中でも特に、理性や判断、そして衝動のコントロールを司る「前頭前野」の働き、いわゆる「実行機能」が著しく低下します。
この実行機能は、車でいえば、感情というアクセルを踏み込みすぎないように制御する「ブレーキ」の役割を果たしています。
通常であれば、カチンとくる出来事があっても、このブレーキが作動し、「今は怒るべきではない」と、感情の爆発を抑えることができますが、脳が疲弊しきっていると、このブレーキの効きが悪くなり、些細なきっかけで怒りや悲しみといった感情が、抑えようもなく溢れ出してしまうのです。
これは、その人の意思が弱いからではなく、脳の機能が物理的に低下していることに起因する現象なのです。
貧乏な人が感情的になりやすい5つの心理的理由

認知資源の枯渇という脳の機能低下に加え、経済的な困窮は人の心に深刻な影響を及ぼし、感情を不安定にさせる、いくつかの心理的な要因を生み出します。
その代表的な5つの理由を解説していきましょう。
常に「脅威」に晒されて心身が「戦闘モード」から抜け出せない
経済的な不安は、まるで常に猛獣に追われているかのような、慢性的なストレス状態を心身にもたらします。
家賃の支払いや借金の督促といったプレッシャーは、生命の危機に直面した時と同じように、自律神経のうち「交感神経」を優位にさせます。
これは、体が常に「戦うか、逃げるか」の戦闘モード(闘争・逃走反応)に入っている状態です。このモードが続くと、心は常に張り詰め、些細な刺激にも過敏に反応し、攻撃的になったり怯えたりしやすくなるのです。
自己肯定感の低下が「自分は軽んじられている」という被害者意識を生む
経済的に困窮すると、「自分は社会から必要とされていない」「価値のない人間だ」といった、自己肯定感の低下に苛まれやすくなります。
この状態に陥ると、他人の何気ない言動さえも自分への侮辱や軽蔑として、歪んで受け取ってしまうことがあります。
例えば、店員の事務的な態度を「馬鹿にされた」と感じたり、友人の楽しそうなSNS投稿を見て「自分だけが惨めだ」と感じたりします。この根深い被害者意識が、他者への不信感や怒りの感情を増幅させてしまうのです。
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選択肢の極端な欠如が「どうにもならない」無力感と怒りを増幅させる
人生における幸福感は、ある程度の「自己決定権」、つまり自分の人生を自分で選択できる感覚によって支えられていますが、経済的な困窮は、この選択肢を極端に奪います。
住む場所や食べるもの、子供に与える教育、そして自身のキャリアに至るまで、あらゆる選択が「お金がない」という理由で制限されます。
この「どうにもならない」状況が続くと、それはやがて、状況そのものや、社会に対するコントロール不能な無力感と激しい怒りへと転化していくのです。
睡眠不足や栄養の偏りが感情をコントロールする脳の働きを物理的に弱める
経済的な問題は、しばしば生活習慣の乱れに直結します。将来への不安から夜も眠れなくなったり、あるいは、長時間労働を強いられて慢性的な睡眠不足に陥ったりします。
また、食費を切り詰めることで、栄養バランスが大きく偏ることも少なくありません。
睡眠不足や脳機能の維持に不可欠な栄養素の欠乏は、前述した脳の実行機能を物理的に低下させ、感情のコントロールをさらに困難なものにしてしまいます。
社会からの孤立感が「誰も助けてくれない」絶望と攻撃性を育む
経済的な困窮は、人との付き合いを減らし、社会的な孤立を深める大きな要因となります。
友人からの誘いを断り続け、誰にも悩みを打ち明けられない状況が続くと、「この世界で、自分の苦しみを理解してくれる人は誰もいない」という深い絶望感に囚われます。
この孤立感は、他者や社会全体に対する不信感を育み、時には、自分を理解しない世界に対する漠然とした攻撃性として現れることもあるのです。
なぜ抜け出せないのか?「経済的困窮」と「感情の浪費」の悪循環

経済的な困窮と、それに伴う感情の不安定さは、それぞれが独立した問題ではなく互いに影響を及ぼし合い、状況をさらに悪化させる強力な「負のスパイラル」を形成します。
一度この悪循環に陥ると、自力で抜け出すことはきわめて困難になります。
感情的な判断が衝動的な浪費や人間関係の悪化を招く
脳の実行機能が低下し、感情のコントロールが効かなくなると、人は目先の快楽や苦痛からの解放を求めて短絡的な行動に走りやすくなります。
例えば、強いストレスから逃れるために、後先のことを考えずに衝動買いをしてしまったり、お酒やギャンブルにのめり込んでしまったりします。これらは一時的な気晴らしにはなっても、結果として、さらなる経済的負担を自身に課すことになります。
また、怒りや不満といった感情を、身近な家族や職場の同僚にぶつけてしまうことで、人間関係は著しく悪化します。最悪の場合、家庭の崩壊や職場での孤立、あるいは解雇といった、自身の社会的・経済的な基盤をさらに揺るがす事態を招いてしまうのです。
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関係の悪化がさらなる孤立と経済的困窮につながる
衝動的な行動によって人間関係が悪化すると、人は社会的に孤立していきます。
いざというときに相談に乗ってくれたり、助けてくれたりする友人や家族を失うことは、精神的な支えを失うだけでなく、有益な情報や仕事の機会といった実利的な支援のネットワークをも失うことを意味します。
この孤立は絶望感や無力感をさらに深め、精神状態をより不安定にさせるだけでなく、新たな衝動的な浪費や人間関係のトラブルを引き起こします。
このように、「経済的な困窮」が「感情の浪費」を呼び、その「感情の浪費」が、さらに深刻な「経済的困窮」を生み出す出口のない悪循環が完成してしまうのです。
負のスパイラルから抜け出すための具体的な対処法

経済的困窮と感情の不安定さが絡み合った負のスパイラルは、強力ですが決して抜け出せないわけではありません。すべてを一度に解決しようとせず、自分にできるごく小さな一歩から踏み出すことが重要です。
そのための具体的な4つの対処法をご紹介しましょう。
「自分は悪くない」と現状を肯定して自己否定をやめる
もっとも大切なことは、「こんなにイライラしてしまうのは自分の性格が悪いからだ」といった、自己否定をきっぱりとやめることです。
前述したとおり、その感情の波は過酷な状況下における脳の正常な反応です。自分を責めるエネルギーは現状を改善するためのエネルギーへと転換させます。
「自分は今まで大変な状況でよく頑張ってきた」と、まずは自分自身を認めてねぎらうことから始めましょう。
自分の感情を客観視する「アンガーマネジメント」の初歩
怒りの感情が湧き上がってきたとき、衝動的に行動するのを防ぐための簡単な技術を身につけます。それは、怒りのピークである「6秒間」をやり過ごすことです。
カッとなったら、すぐに反応せず心の中でゆっくりと1から6まで数えます。あるいは、その場から一旦離れて深呼吸をするのも有効です。
このわずかな時間的・物理的な距離が、脳の理性を司る部分を再稼働させ、後悔するような言動を食い止める助けとなります。
お金をかけずに心を満たす「3つのリスト」を作成する
ストレス解消の手段が浪費に直結するのを防ぐため、お金のかからない「ストレス解消法リスト」をあらかじめ作成しておきます。
例えば、以下のような3つのカテゴリーで今の自分にできそうなことを書き出してみましょう。
- 5分でできること:好きな音楽を1曲聴く、温かいお茶を淹れる、窓を開けて深呼吸するなど。
- 30分でできること:近所の公園を散歩する、図書館で雑誌を読む、信頼できる友人に電話するなど。
- 半日できること:地域の無料施設を訪れる、お弁当を持ってハイキングに行くなど。
ストレスを感じた時にこのリストを見ることで、衝動的な消費以外の健全な選択肢があることに気づくことができます。
勇気を出して公的な相談窓口を利用する
経済的な問題は、個人の力だけで解決するには、あまりにも複雑で大きな問題です。一人で抱え込まず、専門家の助けを借りる勇気を持ちましょう。
各市区町村の生活相談窓口や社会福祉協議会、借金の問題であれば法テラス(日本司法支援センター)、精神的な辛さが続くようであれば保健所や精神保健福祉センターなど、無料で相談できる公的な窓口は数多く存在します。
専門家に相談することは、この苦しい状況から抜け出すための、もっとも確実で正しい一歩です。
感情の波は心が発するSOS!問題の根源と向き合う勇気を持つ

もし今、激しい感情の波に苦しんでいるのなら、それは心が発している必死の「SOS」のサインです。
その怒りや悲しみは、決して心が弱いからでも性格が悪いからでもありません。それは、認知資源が枯渇し、心身が限界に達していることを知らせる体からの悲鳴なのです。
そのSOSを自己嫌悪でかき消してはいけません。その感情は、ただ苦しめる敵ではなく、根本的な問題のありかを指し示してくれる、もっとも正直な道しるべです。
そして、その指し示す先にあるもの、すなわち経済的な困窮という問題の根源と、正面から向き合う「勇気」を持つことが、この長いトンネルから抜け出すための唯一の光となります。
一人で戦う必要はなく、自分を責める必要もありません。ただ、そのSOSに正直に耳を傾け、助けを求める一歩を踏み出すこと。その勇気こそが、経済的な安定と、そして何より、心の平穏を取り戻すための、もっとも確かな力になるのです。