株をやっていることを絶対に言わない人の心理を解説します。
なぜ彼らは頑なに株について話さないのか。聞いてもはぐらかしたり、利益や損がどれくらいあるかも話しません。
実際に周りにそういう人がいる場合は参考にしてみてください。
「株が趣味」と言えない…その“もやもや”の正体

「ご趣味は?」という日常的な質問に対し、読書や映画鑑賞、スポーツなど当たり障りのない回答をしつつも、心のどこかで「本当は株式投資だけど…」と感じた経験はないでしょうか。
資産形成への関心が高まり、株式投資が以前よりも身近な存在になったにもかかわらず、それを趣味や関心事として公言することには、なぜか強い抵抗感が伴います。
この、言葉にできない「もやもや」の正体は、個人の性格の問題ではなく、より根深い心理的・文化的な背景にあります。
多くの人が感じる「投資話のしにくさ」
NISA制度などを背景に、多くの人にとって資産運用は特別なものではなくなりつつありますが、それでも日常会話において「お金の話」、特に株式投資の話は、依然として一種のタブーとして存在し続けています。
親しい友人や同僚、時には家族に対してさえ、投資の話題を切り出すことにはためらいが伴い、意図的に避けてしまうことも少なくありません。
この「話のしにくさ」は、多くの人が無意識のうちに共有している現代社会の空気感ともいえるでしょう。
言わない選択の背景にある複雑な心理
株式投資について口を閉ざす選択は、決して珍しいことではありません。むしろ、それは人間関係の機微を察知し、自らを守るための合理的な判断である場合も多いのです。
その背景には、「自慢と受け取られたくない」「他者からの嫉妬を避けたい」「損をした時に気まずい思いをしたくない」といった対人関係への配慮から、お金儲けに対する潜在的な罪悪感、さらには日本社会に根付く特有の価値観まで、さまざまな心理が複雑に絡み合っています。
株の話を避けてしまう5つの深層心理

株式投資の話を避ける行動の裏には、私たちが無意識のうちに影響を受けている強力な心理的メカニズムが存在します。
それは単なる個人の性格や気質の問題ではなく、人間の本能や社会的な学習に根差した普遍的な心の働きです。
その行動の源泉となる5つの深層心理を、心理学や行動経済学の理論を交えて徹底的に分析していきましょう。
関係性を壊したくない「社会的比較理論」の罠
心理学者レオン・フェスティンガーが提唱した「社会的比較理論」は、人は他者と自分を比較することで自己評価を行う、という人間の根源的な性質を説明するものです。
私たちは、自分と似た他者を基準に、自身の能力や意見の妥当性を測っています。株式投資の話題は、この社会的比較を極めて強く刺激します。
もし自分が儲かっている話をした場合、相手は「自分は持っていないものを相手は持っている」と感じ、無意識のうちに劣等感や嫉妬を抱く可能性があります。
逆に、自分が損をしている話をした場合、相手からは同情されるか、あるいは内心で「自分の方がうまくやっている」という優越感を持たれるかもしれません。
どちらの状況も、対等であるべき人間関係に「上下」の感覚を生じさせ、既存の関係性をぎくしゃくさせてしまうリスクをはらんでいます。
投資の話を避けるのは、この比較の罠から人間関係を守ろうとする高度な社会的スキルともいえるのです。
お金への罪悪感?日本に根付く「清貧の美徳」という価値観
日本社会の文化的背景には、古くから「清貧の美徳」、すなわち、貧しくとも心が清らかであることを尊ぶ価値観が根付いています。
これは、勤勉に汗水流して得た労働の対価を尊び、利殖や投資といった、いわば「お金がお金を生む」行為に対して、どこか後ろめたさや罪悪感を抱きやすい土壌を形成してきました。
「お金儲けの話ばかりするのは品がない」という社会通念も、この価値観の表れといえるでしょう。
そのため、株式投資によって利益を得たとしても、それを公言することは「不労所得をひけらかしている」と見なされかねない心理が働きます。
たとえ頭では合理的な資産形成だと理解していても、感情のレベルで、お金儲けの話をすること自体にブレーキがかかってしまうのです。
損得で自分が揺らぐ「プロスペクト理論」の影響
行動経済学の代表的な理論である「プロスペクト理論」は、人間がいかに合理性だけで判断していないかを明らかにしました。この理論の重要な発見の一つに、「人は利益を得る喜びよりも、同額の損失を被る苦痛を2倍以上大きく感じる」という「損失回避性」があります。
この理論に照らすと、株で損をした事実を他人に話すという行為は、単に事実を報告する以上の大きな心理的苦痛を伴います。話すことによって、損失の事実を改めて自分の中で直視し、その苦痛を再体験することになるからです。
また、他者からの同情や慰めが、かえって自身の失敗を際立たせるように感じられることもあります。
損失の事実をなるべく考えたくない、話したくないと感じるのは、この損失回避性からくる、ごく自然な心の防衛反応なのです。
面倒な期待を避ける自己防衛の心理
投資の話をすることで生じ得る、他者からの面倒な期待や干渉から、あらかじめ自分を守りたい自己防衛の心理も強く働きます。
例えば、儲かっている話が広まれば、「何か良い銘柄を教えてほしい」「どうやったらそんなに儲かるのか」といった質問を受けるかもしれませんが、投資は自己責任が原則であり、安易なアドバイスは将来的なトラブルの原因になりかねません。
逆に、損をしている話をすれば、「だから言ったじゃないか」「早くやめた方がいい」といった、求めてもいない助言や批判を受ける可能性もあります。
こうした他者からの過度な期待や無責任な干渉は、精神的な負担以外の何物でもありません。投資の話をしない選択は、こうした不必要な人間関係のコストを未然に防ぐための賢明な処世術でもあるのです。
他人と違うことへの不安「同調圧力」と「出る杭は打たれる」文化
周囲の人々と同じ行動をとることで安心感を得る「同調行動」は、集団社会を円滑に維持するための重要なメカニズムです。
特に日本ではこの傾向が強く、「出る杭は打たれる」の言葉に象徴されるように、集団の和を乱したり、目立ったりする行為が敬遠される文化があります。
自分の周りに株式投資をしている人が少ない場合、自分が「他人とは違う特別なことをしている」と感じ、それを公言することに不安を覚えることがあります。
「お金にがめつい人」「リスクを取る変わった人」といったレッテルを貼られることを恐れ、周囲に合わせて投資の話をしない選択をするのです。
これは、集団の中で孤立したくない人間の本能的な欲求に基づいた行動といえます。
株をやってると言えない具体的な理由

前述した心理は、私たちの日常生活において、より具体的でリアルな「言えない理由」となって現れます。
多くの投資経験者が「これだ」と思わず頷いてしまうような状況別の気まずさや葛藤。そうした投資家「あるある」のシチュエーションを紐解いていきましょう。
自慢や妬みと捉えられたくない
株式投資で利益が出ているときは、本来であれば喜ばしい状況のはずですが、その事実を口にすることは意図せずして「自慢話」と受け取られ、相手の心に妬みや嫉妬といったネガティブな感情を呼び起こしかねません。
友人との食事の席で何気なく口にした「最近、株の調子が良くて」という一言で、場の空気が一瞬にして冷めてしまった経験を持つ人も少なくないでしょう。
自分の成功が相手との間に見えない壁や距離感を生んでしまうことを恐れるあまり、つい口をつぐんでしまうのです。
その結果、共通の当たり障りのない話題に終始し、自分の大きな関心事については話せない状況が生まれます。
失敗を認めたり心配されたりするのが気まずい
損失を抱えている状況もまた、他人に話しにくいものです。そこには、自分の判断ミスや知識不足といった「失敗」を公にしたくないプライドが働いています。
特に、投資をしていない人から「だから素人は手を出すべきではない」といった目で見られることへの抵抗感は強いものです。
また、善意からくる「大丈夫?」といった心配の言葉でさえ、かえって自分の苦しい状況を浮き彫りにし、精神的な負担となることがあります。同情されることで、自分の未熟さを改めて突き付けられているように感じてしまうのです。
こうした複雑な感情から、損失については誰にも話さず、一人で抱え込んでしまうケースが多く見られます。
お金の話自体がタブーという空気感
個人の損益状況とは別に、そもそも日本の社会には「お金の話」そのものを公の場ですることを敬遠する根強い空気感が存在します。
給与や貯蓄額が極めてプライベートな情報であるのと同様に、個人の資産運用状況もまた、他人が軽々しく踏み込むべきではない領域だと考えられています。
この暗黙のルールを破り、投資の話題を切り出すことは、相手のプライベートに土足で踏み込むような品のない行為だと見なされかねません。
たとえ話したい気持ちがあっても、この社会全体の「空気」を読み取り、自ら話題にすることをためらってしまうのです。
投資への偏見や誤解が面倒
資産形成の手段として株式投資が広まりつつある一方で、「株はギャンブル」「一攫千金を狙う危ないもの」といった、一昔前の偏見や誤解もいまだに根強く残っています。
こうした先入観を持つ人に対して、自分が株をやっていると明かすと、あらぬ心配をされたり、投機的な人間だと決めつけられたりすることがあります。
その都度、長期・積立・分散といった資産形成の基本的な考え方や、自身のリスク管理について一から説明するのは大変なエネルギーを要する作業です。
この「解説や弁明が面倒」という気持ちが、結果的に「最初から話さない」もっともシンプルな自己防衛策につながっていくのです。
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株の話をするメリットとデメリット

株式投資の話を避ける背景には根深い心理が存在しますが、その一方で「話すこと」によって得られる恩恵も確かに存在します。
最終的に「言う」か「言わない」かを決めるのは、それぞれのメリットとデメリットを冷静に比較し、自分にとってどちらの価値が大きいかを判断するプロセスにほかなりません。
その判断材料を客観的に解説していきましょう。
メリット:仲間との情報交換や知識の深化、孤立感の解消
株式投資について話すことの最大のメリットは、信頼できる相手との間で有益な情報交換が生まれ、自身の知識が深化する点にあります。
自分一人では気づかなかった経済ニュースの解釈や、新たな投資の視点に触れることで、投資家としての視野が広がります。
また、自分の投資判断や考えを言語化して相手に説明する過程で、思考が整理され、より客観的に自分の戦略を見つめ直すきっかけにもなります。
さらに、投資は基本的に孤独な判断と実行の連続です。同じように資産形成に取り組む仲間の存在を知ることは、相場が不安定な時期の不安を和らげ、孤立感を解消する精神的な支えとなるでしょう。
デメリット:人間関係の軋轢や金銭トラブル、要らぬ詮索のリスク
デメリットとしてもっとも深刻なのは、やはり人間関係の軋轢です。
儲け話が妬みにつながり、損失の話が侮りにつながることで、それまで良好だった友人関係や同僚との関係に亀裂が入りかねません。一度こじれた関係を修復するのは非常に困難です。
また、直接的な金銭トラブルに発展するリスクも無視できません。安易なアドバイスが原因で相手に損失を与えてしまったり、逆に「儲かっているなら」とお金の貸し借りを求められたりする可能性もゼロではありません。
さらに、一度話してしまうと、「その後どうなった?」「いくら儲かった?」といった要らぬ詮索が始まることもあります。
自分の資産という極めてプライベートな情報が、意図しない形で他者の関心の的になってしまうのです。
結論:言わない派が多数?データで見る日本人の投資観
それでは、実際には「言う人」と「言わない人」、どちらが多いのでしょうか。
金融広報中央委員会が実施している「家計の金融行動に関する世論調査」は、この問いに一つの示唆を与えてくれます。この調査では、金融資産の運用や預貯金などに関して相談する相手について尋ねる項目があります。
この調査結果を見ると、相談相手として「誰にも相談しない」と回答する割合が、他の選択肢と比較して非常に高い水準で推移していることが分かります。
これは、これまで述べてきた「言わない心理」が単なる個人の感覚ではなく、多くの日本人に共通する傾向であることを客観的に裏付けています。
この事実は、「投資の話をしにくい」と感じることが、決して特別なことではないことを示しているといえるでしょう。
もし話すなら?人間関係を壊さない上手な伝え方

基本的には慎重であるべき株式投資の話題ですが、信頼できる相手と有益な情報交換をしたい場合や、どうしても話さざるを得ない状況も考えられます。
そのようなときに、人間関係へのダメージを最小限に抑え、建設的なコミュニケーションを実現するためには、いくつかの「技術」が必要です。
そのための具体的な3つの方法を解説していきましょう。
相手を選ぶ(誰に話しても良いわけではない)
投資の話をするうえで、もっとも重要なのが「相手選び」です。誰に話すかによって、その結果は天と地ほど変わってきます。
まず大前提として、相手自身も資産形成に関心があり、基本的な金融リテラシーを持っていることが望ましいでしょう。知識レベルが大きく異なると、会話が噛み合わず誤解を生む原因となります。
加えて、相手の価値観や人柄を見極めることも不可欠です。普段の会話の中で、他人の成功を素直に喜べるか、お金の話に対してオープンな姿勢かなどを観察しておくことが重要です。
これらの条件を満たさない相手には、たとえどれだけ親しい間柄であっても投資の話は避けるのが賢明な判断といえます。
目的を明確にする(なぜ話したいのか?)
実際に口を開く前に、「自分はなぜ、この相手に、この話をしたいのか」という目的を自分自身の中で明確にしておく必要があります。目的が曖昧なままでは、話が思わぬ方向へ進み、意図しない結果を招きかねません。
例えば、目的が「有益な情報交換」なのであれば、自分からも相手にとって価値のある情報を提供するという姿勢が欠かせません。
「ただ気持ちを共有したい、共感してほしい」のであれば、相手に過度なアドバイスを求めるべきではありません。
もし、自分の心の中に少しでも「知識をひけらかしたい」気持ちがあるならば、それは話すべきではないサインです。
目的を明確にすることで会話のゴールが定まり、誤解を招く発言を減らすことができます。
具体的な金額や損益は言わない「資産形成の一環」として話す技術
人間関係を壊さないためのもっとも重要な技術は、話の核心部分である「具体的な金額」や「個別の損益」には決して触れないことです。これらの生々しい数字は、相手の嫉妬や過度な詮索を招く最大の要因となります。
伝える際は、「将来のために資産形成の一環としてNISAを始めた」「経済の勉強のために余裕資金で少しだけ試している」といったように、あくまで一般的な「制度利用」や「勉強」という枠組みで話すのが効果的です。
個別の銘柄の話ではなく、「最近のこの経済ニュース、どう思う?」と、社会情勢の話題として切り出すのもよいでしょう。
このように話を抽象化・一般化することで、個人の損得という次元から離れ、安全で建設的な意見交換の場を作ることが可能になります。
株の話をするもしないも自由!大切なのは人間関係やストレスの有無

株の話をする根底には、他者と比較してしまう人間の本能、お金に対する文化的な価値観、そして損失を避けたい自己防衛の心理が複雑に絡み合っています。
「投資の話をするべきか、しないべきか」の問いに、万人に共通する唯一の正解はありません。話すことには有益な情報交換や孤立感の解消といったメリットがあり、話さないことには人間関係の軋轢や金銭トラブルといったリスクを回避できるメリットがあります。
どちらの価値を重んじるかは、個人の価値観や相手との関係性によって変わってきます。
しかし、一つ確かなことは、「話さない」の選択は、決して臆病さや秘密主義の表れではなく、多くの場合、自分の心の平穏や大切な人間関係を守るための非常に合理的で賢明なリスク管理であるということです。
株式投資の本来の目的は、資産を育て、人生をより豊かにするための手段であるはずです。その過程で、不必要な精神的ストレスを感じたり、人間関係に悩んだりするのは本末転倒といえるでしょう。
どのような情報を、誰に、どこまで、どのように話すか。あるいは、話さないという選択をするか。そのコミュニケーション全体を上手にコントロールすることもまた、長期的に投資と付き合っていく上での重要な技術の一つです。